動物病院経営において最も大きなコスト。
それが皆さんご存知の通り、「人件費」です。
多くの院長先生方が「人件費はある程度高くても仕方ない」と考えています。その理由は、スタッフが辞めてしまうと診療が回らなくなるからです。
過去にスタッフの急な離職により、現場が回らなくなってしまった苦い経験をお持ちの先生も少なくないと思います。
そのため、「あの辛さはもう二度と味わいたくない」と、多少人件費が高くても雇用を維持するという判断をされるケースが多いです。
また、離職率の高い病院では、突然の退職に備えて予めスタッフを多めに配置している傾向があり、その分人件費率は高くなりがちです。
一般的に動物病院の人件費率は30%以内が健全と言われていますが、私の知る限りでは以下のようなケースが多い印象です。
- 年商5000万円:人件費率 28%
- 年商1億円:人件費率 32%
- 年商1.5億円:人件費率 35%
- 年商2億円:人件費率 37%
このように、病院の規模が大きくなるにつれて人件費率も高くなる傾向があります。
※あくまで目安としてご覧ください。
外科実施率が高い病院の特徴
一方で、外科実施率が高い病院では、同じ規模でも人件費率が下がる傾向があります。
外科は単価が高く、1件あたりの収益性も高いため、同じ人員でより高い売上を実現できるからです。
- 年商5000万円(外科比率高):人件費率 25%
- 年商1億円(外科比率高):人件費率 28%
- 年商1.5億円(外科比率高):人件費率 30%
- 年商2億円(外科比率高):人件費率 33%
外科実施率が高い病院では、人件費率が3〜5%低くなる傾向があります。
離職率が高い病院の特徴
一方で、毎年3名以上が退職するような離職率の高い病院では、求人が集まりづらく、相場より高めの給与提示が必要になり、結果として人件費率が3〜5%高くなる傾向があります。
エリアによる違い
さらに、人件費率はエリアによっても大きく変動します。
たとえば、首都圏や政令指定都市と比べて、地方都市や郊外エリアでは2〜3%人件費率が低い印象があります。
これは、動物看護師やトリマーの募集でも「月給20万円で応募がある地域」と「月給25万円でも応募がこない地域」の差です。
人件費を下げたいなら、こんな選択肢があります
病院の規模を無理に大きくしすぎない
外科診療の比率を高める(去勢避妊以外の軟部外科や整形、内視鏡など)
離職率を下げる取り組みを徹底する(教育、人間関係、労働環境の改善)
競合の少ないエリアで開業する(郊外や地方)
この4つを意識するだけで、人件費に悩まされる可能性は大きく減らせます
とはいえ、実際には多くの先生方が「都市部での開業」や「一次診療中心の運営」を望まれます。
しかし都市部では人材の流動性が高く、より条件の良い病院がたくさんあるため離職率が高くなりやすいです。
また、外科で差別化を図ろうにも高度医療を扱う病院や専門医が多く、競争が激しいのが現実です。
まとめ
「地方や郊外は人材が集まりにくいのでは?」と不安に思うかもしれません。
私自身もそう思っていましたが、実際には想像以上に人が集まっています。
むしろ都市部の方が採用に苦戦している病院も多く、選択肢が多い分、離職率も高い傾向にあります。
これから開業を検討されている先生方、そのエリア、本当に戦える場所でしょうか?
「家から近い」「土地勘がある」「街並みが好き」
そんな理由だけで選ぶと、後々苦戦することもあります。
開業地の競合状況・人材確保の難易度・将来性を、しっかり見極めてください。
動物病院経営のリアルな情報を、今後も発信していきます。